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東京地方裁判所 昭和51年(むのイ)1119号 決定

被告人 吉田邦宏 外一名

主文

本件各準抗告の申立は、いずれも、これを棄却する。

申立の趣旨

「右の者らに対する頭書被告事件について、昭和五一年八月一七日東京地方裁判所裁判官がした各保釈許可の裁判中、指定条件第五項を取消す。」との裁判を求める。

申立理由の要旨

別紙(一)記載のとおり

当裁判所の判断

別紙(二)記載のとおり

適用した法令

刑事訴訟法四三二条、四二六条一項

(裁判官 金隆史 竹澤一格 新井慶有)

別紙(一)

各原決定は、その指定条件第五項として「被告人は丹羽徹、渡辺太郎及びその家族に対し、面接、通信等一切の接触を行つてはならない。」と定めているが、かかる条件は、刑事訴訟法八九条各号、九六条一項各号との関連でこれに拘束されるべきところ、右第五項はこれに違反して定められた条件であり、被告人の防禦権行使に必要な平穏な手段による面接、通信行為までも一律に禁止するもので違法であり、かつまた、本件被告事件は労働争議の過程において発生したものであるところ、右の定めは右争議行為の中心となる右渡辺、丹羽らへの面接、機関紙配付による通信を禁ずるものであり、労働基本権を侵害するもので違法である。

別紙(二)

一件記録によれば、被告人らについては、いずれも、昭和五一年八月一七日、保釈を許可する旨の原裁判がなされ、即日保証金が納付されて被告人らが釈放され、それから三か月以上経過した同年一二月一日に本件各準抗告の申立がなされた事実が認められる。ところで準抗告の申立期間については、刑訴法上、特別の規定はないが、これを無制限に許容することは法的安定性を害して許されないものと解するのが相当である。そして、その許容される合理的な期間を如何に解するかは、具体的事案の内容と不服申立の趣旨により一律にはこれを断じがたいが、これを本件に即して考察すれば、被告人らは右のごとく即日保証金を納付して出所し、その後三か月間も経過させることによつて、裁判所はもちろん、対立当事者である検察官においても、また、被告人らにおいても右裁判に不服はないものとしての法律状態が生成し、安定していたものであり、今日においては、もはや、原裁判そのものを攻撃する不服の申立は許されないものといわなければならない。

もつとも、本件申立が、原裁判後の事情の変更を理由にその指定条件の一部の変更を求める趣旨ならば、その変更について原裁判官の判断を受くべきが先決であり、当裁判所において直ちにこの点に関する判断をすることもできない。

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